未来への遺産

円谷プロの本社工場が閉鎖されるということを、朝のワイドショーで特集していた。
「特撮と歩んだ45年」というタイトルで。
懐かしい思い出話。
そして、経営悪化による会社の身売りと本社工場閉鎖。
怪獣倉庫まで足を運んだという熱烈なファンの笠井信輔アナウンサーは、アメリカでいえばディズニーにあたるところなのにと残念そうに語っていたが、私も同感である。

なくなったものは、もう戻ってこない。
思い出だけに生きるのでは仕方ないが、具体的な事物が残っていけば、それはその時代を遠い未来からでも体感できるもっとも貴重な遺産となるのだ。各国で大切に保存されている画家や音楽家や作家達の生家や仕事場は、まさにそれであり、我々は今でもその場に行き、彼らがどんな思いで作品へと取り組んでいたか、その気持ちを垣間見ることができる。

50年後、100年後に言われるだろう。なぜ、この時代の人は、残しておこうと思わなかったのかと。

同様な例として、トキワ荘がある。
新しく建て替えられ、それも今はないと聞く。
そもそも建て替える前に、公的な機関かもしくは出版社の共同出資などで買い取り、残しておくべきものだったのである。
日本の漫画とアニメーションの20世紀後半の進化発展は、世界の文化史上、稀有な出来事であり、これらに比べれば、日本の他の文化、例えば、歌舞伎、能、俳句、浮世絵などの海外でも評価の高い伝統文化の位置は、歴史上、些末な出来事にすぎない(あくまでも相対的な話であり、それぞれの価値を貶めるわけではない)。その文化の、ある意味記念碑的な場所が、今は、跡形もないのである。世界史的な視点から考えれば、法隆寺が残っている以上に、トキワ荘が残っているべきだったと、のちの時代に語られるものと私は思っている。