最高学府の矜持

シンドラー社のエレベーターの話を続ける。その後、各地で同社エレベーターのトラブル情報が多数寄せられているが、故障多発の最初の情報は、東京工業大すずかけ台キャンパス(横浜市緑区)からのものであった。
使い始めた昨年8月以降、『内部に人が閉じこめられる。扉が外れる。停止時に床との段差が生じる。停止するはずの階を通過する。異常音がする』などのトラブルが10カ月間で14件起きたそうである。

さて、トラブルが起こった場所が場所である。

東京工業大の学生及び大学教員達は、なぜ、この情報を公に警告を発しなかったのだろうか。また、なぜ、独自にきちんと調査しようとしなかったのだろうか。

このようなことを言うと、「学生にそんなことまで求めるのはおかしい」と思われる人が多いかもしれない。しかし、大学生は、それまでの初等教育中等教育の場での学生とは違う。大学の学生とは、本来、その大学の教員と対等な立場で、ともに、最高学府で人類の最先端の学問を研鑽する位置にいるものであり、その中で、学問の社会とのあり方を考える社会的責務を負っているものなのだ。そして、何より、彼らは東京工業大学の学生であり教員である。技術系の学問を専門としている者なのである。

10ヶ月間、それだけのトラブルが起こった場合、その話題は、多くの学生や教師の耳にも入ってきていたはずである。彼らは、大学で、それを専門に学習や研究を行っている者として、その社会的責務を果たすべきだったのである。社会の中での技術のあり方への思想、安全に関する鋭敏な感覚、専門家としての倫理観、それらのものが欠けているとしたら、それは、技術者としてのライトスタッフが欠けているのであり、その仕事に就くべきではない。特に、教育する側で、この不具合に早くから気づいていて、今回の事故が起きるまで何も動こうとしなかった者は、大学での教育者としての資格がない。辞職すべきである。

ところで、報道によると、東京工業大は、「事故が起きないという保証はなく不安だ」と、製造元のシンドラーエレベータに原因究明を申し入れたとのことであるが、この態度は、一般の企業やマンション住人の姿勢と全くかわらないものである。
仮にも技術系の専門家や研究者を養成するはずの場である大学がトラブルを頻繁に起こしていた機械を見過ごしたということに関して、彼らは、恥や責任を感じていないのだろうか。そして、なぜ、社会は、それを当たり前のことのように受け止めてしまうのだろうか。

本来、東京工業大は、自発的に社会に対して謝罪をすべきではなかったのか。
たとえ、社会がそれをまったく求めていなかったとしても。