「その時歴史が動いた・継体天皇ヤマトを救う」

とんでも歴史オンパレードの「その時歴史が動いた」であるが、今回は、特にひどかった。継体天皇は、武烈天皇で系統が絶えたあとに越前から招かれた天皇であり、その擁立には、その頃の大和政権での勢力争いが背景にあるのは状況から明かなことである。そもそも、血統としてつながっているかも怪しい存在であるが、そのこと自体は問題ではない。万世一系などはまやかしにすぎないし、そもそもそんなことは、どうでもいいことなのだから。
しかし、その怪しい存在を真実の存在とし、かつ、彼の擁立を、近江出身による鉄の利用の普及、朝鮮半島との強いパイプ、そして、皆が心を一つにして新しい国家作り・・・などなどと美辞麗句で固めるとなると、意味合いが違ってくる。その大半を、大和政権の権威付けとして創作しているフィクションの日本書紀の記述をそのまま鵜呑みにし、統一国家としての大和政権を目指した理想の君主として描く、この番組は、一体、なんなのだろう。
もちろん、歴史のことをきちんと知っている人は、このような番組をそのまま事実として鵜呑みにはすまい。いや、そもそも、真実唯一の歴史があるということ自体がありえないことであることも知っているであろう。あろうと思いたいが、でも、実際、そのように歴史を認識している人がどれぐらいの割合で存在するであろうか。大多数の人にとって、この番組で語られることは、フィクションではなく、歴史的な事実と認識されているのではなかろうか。歴史とは自然科学と同様、科学的な方法論で検証されていく科学である。個人の脳の中で創り出されたフィクションではない。もちろん、歴史文学のようにフィクションとして歴史を楽しむものもあるし、また、その方法論によって、より歴史の真実に迫れる部分もあろう。しかし、仮にも歴史を学問として、その真実へと肉迫するという位置で、語り、研究している者が、自分の頭の中だけで構築した物語を、事実と混在させてしまっているとしたら、それは、もう、学問に対する姿勢ではないし、そもそも、学問を行う資格がない。実験データを罪の意識なしに歪曲する自然科学者のようなものである。
今回のスタジオゲストは、一乗谷朝倉氏遺跡資料館館長の青木豊昭という人であった。「元福井県埋蔵文化財調査センター所長で、福井県内の古墳調査に長年従事してこられた」とNHKのホームページにあったので、郷土史家であろうか。郷土史家には、自分の頭の中で創り出した物語と事実との区別がついていない人が多いようであるが、この人も、その類であろう。そのような妄想を、仮にも「歴史」と銘打って語るということを、この放送局は一体どのように認識しているのであろう。