ものを買わない若者たち・・・「久米宏・経済スペシャル”新ニッポン人”現る!」


テレビ東京(2008/6/1)「久米宏・経済スペシャル”新ニッポン人”現る!」は、面白かった。

この番組は、20代の若者を「新ニッポン人」と称してその特徴をルポするわけだが、その特徴の特に現れた三点として

1,車を買わない。車に乗りたいとも思わない
2,酒を飲まない。(他、麻雀やパチンコなどの賭け事もやらない)
3,海外旅行に行かない。行きたくもない。

を挙げていた。
で、40代以上と20代を対比させて、番組としては、「最近、おかしいぞ。20代。このままでは日本はどうなる(内需が伸びないので)」のように描いているのである。少なくとも導入としては。
この視点はおかしい。
むしろ、おかしかったのはこれまでであり、やっとまともになったのだ。
そのように導入の視点がおかしいこの番組がなぜ面白かったかというと、この番組には仕掛けがある。おそらく久米宏も、これまでがおかしかったということを皮膚感覚でよくわかっている。しかし、それをそのようには言わない。むしろ、旧世代の、若者の消費行動への反発を引き出しながら番組を進める(ちなみに、よく民放で「商品が売れない」という番組ができたと、久米宏自画自賛していた。確かにそうだ)。

番組で、20代の奇妙な習性をルポしていく。

・女の子をひっかけるために車を買うなんて、よくわからない。電車など十分交通機関は充実している(これは首都圏などの話だが)し、必要なときだけ車なんてレンタルとかすればいい。
・ビールなんて美味しくない。そもそも、酒を強制されてみんな同じものを飲む必要なんてない。皆、好きなものを注文すればいい。
・昔の20代(今の40代)の休みの使い方は、50パーセント以上がドライブであったが、今の20代は、部屋の中ですごすが半数以上。
・そもそも消費しない。20代の貯蓄率が70パーセント。
・100億以上の資産がありながら、立ち食いうどんで満足しているトレーダー。

というのをレポートすればするほど、非常に彼らが健全に思えてくるのである。
以前、バブル世代とバブルを知らない世代の対決というような番組があったが、これも同様であった。バブル世代が気が狂っていて、バブルを知らない今の若者の方がずっとお金に関する感覚がまともに見えるのだ。

まあ、私は、欲しい物がたくさんあって、物欲たっぷり、車も欲しいし、酒も好きだし、海外旅行もあちこち行ってみたいと、新ニッポン人の傾向とは、うんと外れるのであるが、でも、それでも、ずっと彼らの方がまともに見えるのである。それは、「車は欲しくなければならない」「酒の場は必要だ」「海外旅行に行かなくてどうする」という旧世代よりも、彼らがずっと自由に見えるため。
この番組の中で語られている新ニッポン人の世代でも、車や酒や海外旅行が好きな人は多いであろう。しかし、それは、皆がそうやっているからとか、世間に合わせるとか、自己主張とかではなく、単に好きだからなのだ。これって、すごく健全で素敵なことだと思う。

もちろん、同時にそこに浮かび上がってくるのは、自分の可能性とか世界を広げたいという気持ちに乏しくなった20代という面もないでもないが、しかし、彼らは、他と合わせるというプレッシャーや義務感で促されていた過去の世代よりもずっとまともに見えるのだ。

番組では、バブル時代とバブルがはじけた以降の日本の経済力の変化を示し、先行きへの不安が20代の買い控えと貯蓄行動につながるのではと論じていたが、そもそも、先行きがバラ色でも、もう20代の行動は、旧世代とは違うものとなるだろう。

最後はまたまたぐるりとひっくり返して、今の20代が、社会貢献やボランティアや環境問題などに関することならば、消費行動が積極的になることや、バブル世代の派手な消費行動に対して「あきれる・真似したくない・格好悪い」と感じる若者が多数であることを示す。

特に持ち上げることなく「奇妙な20代」と語りながら、その中で、旧世代を否定し次代への希望を見るような、そんな構造の番組だったのかもしれない。偶然そうなったのかもしれないが、狙ってやったのだったら、かなり計算されたものだと思う。少なくとも、久米宏には、その意図はあった。