内定取り消しが、問題なのか

景気悪化による内定取り消しが連日報道されている。
この問題に関して、それを否とする報道はあっても是とする報道は皆無といってよい。
私もさすがにこれを是とはしないが、それはさておき、そもそも「内定」の今の状況自体が問題だったのではないだろうか。そして、他に手段はなかったとはいえ、その問題のある状況に乗って自分の就職を決めていたということで、仕方がなかったと言えるところもあるのではないだろうか。

そもそも、内定取り消しに関して多くの来期新卒学生が怒りを覚えているのは、「ずっと前に内定が出されていて、安心して他の活動は何も行っていないのに、なぜ、今、内定が取り消されるのだ。これから、就職活動を行っても、もうどこも残っていない」と。
しかし、その人は、そこを就職先として選んだのである。
そして、そこに入る前から解雇になったような状況なのだが、そもそも、まだ、入っていないし、新年度前の今、まだ就職活動期間中なのである。
就職期間が終わった後に入社して即解雇というのは状況が違っている。
入った会社がすぐにつぶれるということも時にはあることであろうが、そのような会社を選んでしまったということである。それは、非常に不幸なことであるが、可能性の1つで、一方的な悪によるものではない。

「内定」の今の状況自体が問題だと書いた。
それは、そもそも今回の内定取り消しにおける学生のショックが20年前なら、なかったからである(もちろん、ないわけではないが、質が違う)。

かつて、就職協定というものがあった。
1986年に、8月20日会社訪問開始、11月1日内定解禁として協定合意されたものだが、これは大学三年次の8月ではない。大学四年の8月である。この就職協定は、1996年に廃止されるのであるが、この間、就職活動は、四年の秋から行うことになっていた。この就職協定が成り立っていた時期に、万一、内定取り消しが行われた場合、内定解禁からほぼ一ヶ月内のことであり、いくらでも取り返しが効くということになる。しかし、現在のように三年次の秋から就職活動が始まり内定が出るということになると、もう次の年度の就職活動がなされている時期ということになり、内定取り消しが致命傷となる。つまり、今回の内定取り消しが問題となるのは、一年半も先の就職活動を行うという異常な状況の上に生じた問題であり、そもそも前提となる新卒採用状況が間違っていたのである。

状況が間違っているのは、雇用される側の新卒者の責任では全くない。

しかし、内定取り消しに関して、取り消し企業を問題としていても、状況自体が問題視されていない。
問題は、今回の内定取り消しなのではなく、そもそも一年半も前から就職活動を横並びで始めるようになっている今の新卒採用状況である。就職協定が結ばれる前には、「青田刈り」という言葉があり、非難されていたが、就職協定が一度結ばれその後に廃止された今、この言葉は復活していない。

就職協定を復活せよと言うのではない。問題は、そもそも新卒のみを重視する今の社員採用状況であり、これを機に、今の新卒採用状況の歪さを表に出し、企業の雇用システム自体を再検討することが必要なのではないかと考える。